診察中の会話からSOAPを作る — 診察室でその場に確定させるカルテ入力の運用手順
15時の再診患者、キーボードに向かうのは患者が退室してから
問診票に目を落としながら3分ほど話し、症状の経過を聞き、処方を決める。患者を送り出し、次の準備をしてから、ようやくカルテの入力画面に向き直る。ところがそのときには「痛みはいつからと言っていたか」「服薬は自己判断で変えたのか、それとも前医の指示だったか」という細部が曖昧になっている。思い出しながら打ち直し、確認のために問診票を見返す。こうして1件あたり数分の遅れが積み上がり、昼休みと診療終了後にカルテの山が残ります。
問題は入力時間そのものより、入力が後ろにずれることで「記憶を再生するコスト」と「記載精度の低下」が同時に起きる点にあります。ここでは、カルテ入力を診察後の作業から診察中に確定する作業へ移すための運用手順を、診察前・診察中・診察後の3つに分けて整理します。
(1) 診察前 — S欄の下書きを先に作っておく
医師が「ゼロから打つ」状態で診察を始めないことが出発点です。Web問診やAI問診の回答をS(主観的情報)欄の下書きへ流し込み、医師は確認して直すところから始めます。
流し込みの並びを院内で固定する
- ①主訴 ②発症時期・経過 ③随伴症状 ④既往歴 ⑤服薬(お薬手帳・処方履歴)⑥アレルギー ⑦生活背景・受診理由
- 順番を固定すると、書く側だけでなく読む側も情報を探す時間がなくなります
看護師の役割と注意点
- 診察前に、問診回答の欠損(発症時期の未記入、服薬の不明確な記載)だけを補完する
- 下書きはあくまで患者の言葉であり、確定情報ではありません。医師確認前の下書きであることが画面上で区別できる運用にします
(2) 診察中 — 会話の流れのままO・A・Pを埋める
- S欄:下書きを1〜2行修正するだけに留める。言い換えず、患者の表現をそのまま残す
- O欄:バイタル・検査値は自動連携、身体所見はテンプレート選択+差分のみ手入力
- A欄:「病名候補+根拠1行」。断定できない場合は#で問題リスト化し、鑑別を並べる
- P欄:患者への説明とセットで入力する。「次回は2週間後、それまでは頓用で様子を見ます」と口に出しながら打つと、説明・同意・記載が同時に成立します
入力を「無言の作業」にしない
画面を患者側に向ける、要点を音読して確認する。この2つを習慣にすると、キーボードに向かう時間が患者にとって不安な間ではなくなります。処置内容や生活指導はその場で看護記録へ記載し、医師の記載と役割を明確に分けておきます。
(3) 診察後 — 退室前に「確定」させる
- 原則は「患者が退室するまでにSOAPを確定」。持ち越すのは検査結果待ちの項目だけ
- 持ち越す場合は未確定タグを付け、当日中の確定を院内ルール化する(例:最終診療の30分後まで)
- 1日の終わりは未確定件数だけを確認し、「未入力カルテ0件」を日次の指標にする
週次で振り返る指標例
- 診察1件あたりの平均入力時間
- 退室時確定率
- 時間外の入力時間
導入のステップ
- ステップ1:問診項目とS欄の並びを統一する(1週間)
- ステップ2:診療科・頻出疾患のO/A/Pテンプレートを10件だけ作る
- ステップ3:医師1名・1診療枠で試行し、入力時間を計測する
- ステップ4:全体展開し、月1回テンプレートを棚卸しする
よくあるつまずき
- テンプレートを作りすぎて探す時間が増える → 使用頻度の上位10件に絞る
- 下書きをそのまま確定してしまう → 医師確認のワンステップを画面上で必須にする
- 記載が短くなりすぎる → 「根拠1行」を必須項目として残す
まとめ
カルテ入力は「後でまとめてやる作業」ではなく、診察の一部として組み立て直すことができます。診察前の下書き、診察中の同時入力、退室前の確定。この3点を運用として固定するだけで、昼休みと診療終了後に残る入力の山は扱いやすくなります。院内全体でいきなり変えるのではなく、まずは1診療枠の試行と入力時間の計測から始めてみてください。
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